One common story in the world

第五十四章   「悪夢の目醒め」

  

 

そこからは、まるで悪夢を見ている様だった。

「いけぇ、潰せぇ!」

思わぬ劣勢となった男は興奮しながら叫んだ。
マスターの指令を受けゴクードも動き出す。

「シフォン、かい、」

「遅ぇ!!!!」

優奈の指令よりも先にゴクードの強烈な
右ストレートを受け、吹き飛ぶシフォン。

「シフォン!」

「見とれるな、次 来るぞ!」

優奈は目まぐるしく変わって行く状況、
明らかにロボトルのスピードについていけてはいなかった。
容赦なくゴクードはシフォンに追撃を繰り返す。

「がぁ、ゆ、ゆうな、くん・・・。」

ゴクードの猛攻を受け、地に伏したシフォンは
力なく、マスターの名を呟くことしかできなかった。

「ふ、ふふふ、そうだ、それでいいんだ。
 今までだって、いろんな会場で俺は、生意気に
 レアパーツを見せびらかす奴をぶっつぶしてきた。
 さぁ、そのパーツ、とっととよこせよ。」

少しだけ余裕を取り戻した男は、
今までとは少し違う笑みを浮かべた。

「わ、渡す、もんか・・・。」

それを拒むシフォン、だがシフォンは
立ち上がることができなかった。

「おいおい、もうてめぇの負けは決まってんだ。
 それを心優しきマスターが これ以上てめぇの
 だーいじなパーツが傷つかねぇよう
 降伏を呼び掛けてんだぜぇ!?」

「ふ、ざけるなぁ!!!!」

シフォンは叫びながら両腕に力を込め、
立ち上がろうとしたその時、

「シフォン、もういい、もういいよ!
 パーツは諦める、だから、もう、いいよ。」

立ち上がろうとするシフォンを止めたのは、優奈の声だった。

「ユウ・・・。」

「でも、パーツが、」

「そんなの・・・もう、
 負けでいいよ、君はよく頑張った。」

言って優奈は、シフォンをじっと見つめた。
その顔は、悔しさ、悲しみ、もどかしさ、
様々な負の感情が混ざりあった表情だった。
その顔を見て、シフォンは決心する。
再び両腕に力を込め、ゆっくりと、
ふらつきながらもシフォンは立ち上がる。

「優奈くん、違うよ、ロボトルの敗北は、
 メダルが地に着いた時だ。
 僕のメダルは まだここにある、あるんだ!
 僕はまだ闘える!
 続けよう、優奈くん!!!」

「シフォン・・・。」

よろめきながらも再び構えるシフォン。

「往生際が悪ぃんだよ!!」

そう言ってゴクードはシフォンを嘲笑い、
猛スピードでシフォンへと迫って行った。

「なんと罵られようと!」

ストローハンマーで迎え撃つシフォン。
ぶつかり合う両者の拳、
吹き飛ぶシフォンとゴクード。

ゆっくりとゴクードは立ち上がる。
シフォンも立ちあがろうとする。
しかし、思うように体が動かず、
またしてもシフォンは地に伏した。



(何度聞いたことだろう、このパーツが
 藤堂さんって言う人から貰った大切なパーツだって。
 渡せない、絶対に、応えたいんだ、優奈くんの思いに、
 なのに、なのに僕はこんなにも不甲斐無い。)

(何度話したことだろう、あのパーツは
 藤堂さんから貰った大切なパーツだって。
 それが苦しめてる、応えたいんだ、シフォンの期待に、
 なのに、なのに僕はこんなにも不甲斐無い。)

― 僕は悔しい、僕は、僕たちは、

『負けたくない!!!』



優奈とシフォンの声が重なった時、それは突然訪れた。
一瞬にして、その場の空気が得体の知れない気配に
支配されるのをその場にいた全員が感じとった。

「な、なんだこの気味の悪い感じは、
 と、とっととトドメをさせ!!」

その得体の知れない空気に耐えきれず男は叫んだ。
しかし、ゴクードから返ってきた返事は、
全く予期していないものだった。

「マ、マスター、体が、動かねぇ!!!」

ゴクードの声は、恐怖に支配され、震えていた。
その気配の中、ゆっくりと、シフォンは立ち上がった。
その時ゴクードは初めて、その恐怖が
どこからあふれ出しているのかを知る。
加速する恐怖。
刹那、シフォンが消えた。



まるで、夢でも見ている様な不思議な気分だった。
一瞬にして場を支配したあの気配は、
シフォンが初めて起動した時と一緒だった。
そう、あの白い騎士と一緒だった。
瞬間、シフォンが消えた。

そして、何かが切り裂かれた音と共に我に帰った。



そこには、胸部を切り裂かれ機能の停止したゴクードと、
呆然とその場に立ち尽くすシフォンがいた。
シフォンの右腕の爪からは、ゴクードのものと
思われるオイルが滴り落ちていた。

状況を把握しきれていない男はゴクードを抱き抱え呟いた。

「なんなんだよ ありゃ、まさかメダフォース・・・?
 そんなのありかよ、くそ、くそぉ・・・。」

言って男は走り去って行った。

「メダフォースだと、
 いや、そんなはずねぇ、あってたまるか。
 メダフォースはもっと優しい力だった・・・。
 じゃあ何なんだ、あの力は、あの、メダルは・・・。」

言って通はシフォンの方を見た。

「勝った、勝ったんだね、僕たち!!」

そこには、先ほどまでの事が嘘だったように、
無邪気にはしゃぐ、優奈と
勝利の喜びを分かち合うシフォンがいた。

通は、まるで悪夢でも見ている様だった。


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